サ行が言えない友人の歯並び

幼馴染の晴美ちゃんは小さいときからサシスセソがうまく言えなかった。本人にそのつもりはないのだけれど、「しゃっき(さっき)」、「しゅじゅめ(すずめ)」、「しぇんしぇい(先生)」、「しょれでね(それでね)」という発音になってしまう。

けれども周りにいた子供たちも、そのことで晴美ちゃんをからかったりすることはなく、むしろ末っ子で愛らしい顔立ちをしている晴美ちゃんのそんな話し方は、上級生の女の子たちからも可愛がられることが多かった。「ねぇ、サシスセソって言ってみて」と上級生からねだられると、晴美ちゃんは素直に「しゃししゅしぇしょ」と応じ、上級生たちが「キャー、かわいい!」と黄色い悲鳴を上げることもしばしばだった。そんな晴美ちゃんを私は羨ましいと感じ、正直に言うと陰でこっそり「しゃししゅしぇしょ」と練習したこともあったほどだ。

多分晴美ちゃんの話し方は、彼女の歯並びに関係すると思う。少し受け口だったから、ちゃんと発音することができなかったのだろう。そんな晴美ちゃんも中学生になると、その話し方を気にしてなのかはわからないけど、矯正を始めた。その後違う高校に行ったため、しばらく会うことはなかったが、短大に入ってアルバイト先が一緒になり、再び仲良くなった。すっかり歯並びのよくなった晴美ちゃんは発音もよくなっていて、サ行が普通に言えるようになっていた。

話し方はその人の性格も変えるのか、末っ子の愛されキャラだった晴美ちゃんは、頼もしいリーダータイプへと変わっていた。そんな晴美ちゃんも私は大好きだけれど、昔の「しゃししゅしぇしょ」と発音していた晴美ちゃんはやっぱり可愛かったなあとも思うのだった。